AQUARIUMと愛のうたをめぐる冒険

AQUARIUMと愛のうたをめぐる冒険

十六夜まよ(@daimarco16)がおんがくを考えるところです

デュオトリオ「結」:始まりと終わり。1フレーズへの長い長い伏線

皆様こんばんは。まよです。

Aqours2ndライブツアー、HAPPY PARTY TRAIN TOURの終着駅、埼玉公演が先日終わり、(私の住む北海道では)本格的な冬の到来を感じる今日この頃。如何お過ごしでしょうか。

デュオトリオシングル、終曲となる4曲目

夏の終わりの雨音が Sounded by 高海千歌×松浦果南

この曲の考察を夏に置いてきてしまったので、今更となりますが私なりの考えをまとめ、このミニアルバムの楽曲考察の締めとしようと思います。

注)歌詞についてはアンダーラインと斜体表示で引用とします。

 

・Twilight

この曲で真っ先に描写されている景色は「雨」ですが、この雨はどういったものでしょうか。

1番サビの歌詞に

海辺の空が 光って
とつぜん 雲が流れ
とあるように、この雨はにわか雨なのでしょう。
雷光を伴う突然の雨。日中に十分に熱を持ち、湿り気を帯びた空気が上昇気流の影響か、または日没近くの急激な温度低下によるものか一気に雲へと変化し、保持しきれなくなった水分は雨となって地上へと降り注ぎます。
楽しかった、暑かった日中の熱気を冷ますように、はたまたそんな熱に浮かされた気持ちを醒ますように……この季節の雨には、どうしてもそんな力を感じてしまいます。
雲が出れば当然日光は遮られ、世界は一気に灰色へ。
雲に隠されながらも遠い空の向こうに輝く太陽は、夏を主張しながらも少しずつその勢いを失い、そしてまた今日も水平線へと沈んでいきます。
そんな、闇が訪れる直前の、けれども薄明かりの残る黄昏時。

そんな時間の光景がトワイライトです。

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トワイライトタイガーちかなん

衣装イメージとして選択された「トワイライトタイガー」
夜明けと日暮れ、一日の始まりと終わりを司るその景色は、Aqoursの発起人となった千歌と、一度はAqoursを終わらせた過去を持つ果南そのものだと言えます。

みかん色エメラルドグリーンのモチーフを取り入れつつも、白と黒が効果的に使われたこの衣装はまさしく光と闇の混ざり合う、複雑な曲調を表現しているとも言えるでしょう。

 

・2人の役割と刹那の恋心

この曲の調性はニ短調だと思われますが、その特徴は「不安、悲歓、荘厳、崇高。シューマンによると、巨大な力を持つ調」と形容されています。*1
不安感の中にも宿る荘厳さや気高さというのは、夕方に降る雨の、その雨雲の間から差し込む一筋の光といった描写からも感じられますし、曲中の果南の持つパーソナリティそのものがそんな二面性をもっているような気もします。冒頭や曲中の台詞の語り口調からは決意や確信のようなものも感じ取れますが、同時に後悔や不安、苛立ちといった感情も読み取れます。
そして「巨大な力」。これは突如変わる天候もそうですし、夏そのものが終わってしまうことにも適用されますが、同時に誰か気持ちが移ろいゆくことを個人の力ではどうすることもできない、そんな無力感を表現する時に対となる大きな壁のようなものなのではないかと私は考えます。
 
そして2人の掛け合いの持つ意味とは。
この曲における千歌果南はそれぞれ「女役」と「男役」となっているように感じられます。
普段のキーが高めの歌声よりも、どっしりとした低音と少しだけぶっきらぼうな末尾処理をする諏訪ななかさんの果南の演技は男性的で、よりフェミニンに、あどけない中にも女性特有のかわいらしさを表現する伊波杏樹さんの千歌は、いつもよりも女性的に聞こえます。
衣装イメージでも、千歌は白成分が多く、果南は黒が基調(そして胸にはチーフ)となっており、スカートとパンツというスタイルの違い、身長差等も相まってより一層「男女の恋心」を想起させるものとなっているのではないかなと。詳細は語られませんが、夏の始まりとともに自覚したその恋心は、何かをキッカケに潰えてしまい、それは丁度夏の終わりと重なって……そんな切ない悲恋が読み取れる歌詞。果南パート
いつだってあなたは身近だった
わざわざ気持ちを確かめるってことも
必要じゃなくて
とあるように、2人は幼馴染だったのでしょうか。これは千歌果南にそのまま適用することもできますが、もっと普遍的な、どこかの誰かの物語としてこの詩は綴られているように感じます。
それはどこか非現実的な、逆光の中に見え隠れする2人の姿からなのか。
輪郭を暈した恋する2人の像は、誰とも言えない一般化された「男女」という形で情景を演じているように思えます。
そしてその中で何度も強調される「今年の楽しい夏」「夏の終わりとともに想いが消える」「同じ夏は二度と来ない」という、このアルバムを通して主張してきた「刹那的な夏」というテーマ。
 
まさに終曲の位置に鎮座するに相応しい、重たいながらもどこか崇高なメッセージを持った楽曲として仕上がっているのでは、と私は考えます。


・楽しかったね…夏。

思えば、この曲で感傷の重機が我々を轢き殺すための準備は、7月13日に公開されたこのCDの公式試聴動画から着々と進められていました。
各曲1コーラスを聴かせてくれる試聴動画、ぶつ切りではなくアウトロまで含めて編集された音源が提供されています。
この試聴動画を公開初日に早速私も聴いたわけですが、各曲の持つキャラクター性と役割、メッセージがぼんやりと感じられて、このブログでも度々論じている「刹那の夏」というテーマは試聴の段階である程度見えてきていたように感じます。
起承転結の構成でそれぞれが「夏」を唄い、そこには過ぎ去る一瞬の輝きを詰め込んで、ノスタルジーを溢れさせる……。
あぁ、良いアルバムになりそうだなと試聴動画の段階から好きになり、多大な期待をしておりました。 
そしてCDを手にした発売当日。フォロワーであるあきのさん(@fairlyta6)*2から「帯の段階で死にますよ」と事前にリプライをもらっていました。
なんぞやと思い店頭で手にした時の衝撃たるや……。f:id:daimarco16:20171008211612j:plain画像ちょっと見づらいですが、帯に刻まれた「楽しかったね…夏」の文字。
確かにこれは相当な破壊力。「楽しいね!」とか「楽しもうね!」ではなく、「楽しかったね」という過去完了形の言葉。
予め4曲がどういうものか知っていた私にとって、本当に衝撃的な一言でした。
やはり夏は終わるし、それを「楽しかったね」と想い出とする動きが間違いなく発生する。そう考えると、その時点で既に感情が落ち着かないものとなっていたのを記憶しています。そして店舗を後にし、車のオーディオでCDをかけ始めます。1曲目、夏への扉 Never end ver.。アツくて楽しい夏への導入。本当に楽しい。ライブでどんな演出になるかな……コールはどうなるだろうか……?
2曲目、真夏は誰のモノ?。私はこの2人が大好きなんです……。情熱と幻想。彼女たちが夢見て恋い焦がれる理想郷はいずこへ。
3曲目、地元愛♡満タン☆サマーライフ。ガラッと雰囲気を変えるトリックスター。2人の吹かせる涼風が、アルバム全体を程良く引き締める。
色々なことを考えながら、様々な夏を味わっていきました。
 
そして4曲目、夏の終わりの雨音が。ああ、切ない恋心と共に、夏が終わる。
約15分の心地よい時間が終わりに近づき、曲は最後の果南の台詞、
「この雨が止む頃には、私の涙も乾く、ってことにしておくよ。
さあ、上を向いて、明日のことを考えようか!」
と明日を見据え、少しだけポジティブに反転した気持ちで締め括られます。
背後で鳴り響くサイバーなシンセサイザーの音が途切れ、残ったピアノでの伴奏も徐々にテンポが落ち、あぁ、この曲も終わるな、というその刹那。
「楽しかったね…夏。」
 
伊波杏樹さんの、千歌の、明るい中に何か影を落としたような、淋しいような、嬉しいような複雑な感情が入り乱れる声色での、この一言
このアルバムは、この曲集は、この一言のためにあったのだな、と衝撃を受け、止まらない涙と動悸のために私は車を路肩に停めました(笑)
 
とにかく計算され尽くした1手。試聴動画で全体の雰囲気を知っていることも踏まえた上で、印象的なフレーズとして帯にそれを載せておきながら、最後の最後で、千歌の声でこれを放ってくるその威力には、計り知れないものがありました。
声に乗せる感情の力を持つものとして、声優としては勿論のこと、舞台女優としても活躍する伊波杏樹さん
芝居がかった言い回しや歌のフレーズを与えた時に彼女が水を得た魚のように活き活きとキャラを演じるところは我々も多くの場面で目にしてきました。それが再び遺憾なく発揮された一言。しかも、表情や仕草の見えない音声だけの音源なのに、それが感じ取れたのです。本当に、ただただ衝撃でした。誰の目から見ても明らかな、この曲の最大の聴きどころ。
果南の語りを目立たせておいてトドメに千歌の台詞を持ってくる巧妙さは、「予想は裏切るが期待は裏切らない」というラブライブ!サンシャイン!!の手法そのままであるなあと舌を巻きました。
 

以上、この曲のラストフレーズにどれだけ轢き殺されたか、というレポート的なものでした。皆さんが初聞で受けたショックは、どのようなものでしたか??

・9月の雨も過ぎ去りて

これまで4回に分けて魅力をお伝えしてきたデュオトリオコレクションCDシリーズ、一応今回にて終わりとなります。
気づけば夏は終わり、September Rainも感じない季節となり……それでもAqoursは走り続けます。
今年は一度切り。夏は儚く過ぎ去り、二度とないものではありますが、やっぱり来年も夏はやってきます。
きっと我々は、夏がくる度にこのアルバムに唄われるような刹那の夏を過ごし、それが過ぎ去ることを惜しみながら終えて、また次の夏を待つのでしょう。
そんな夏のお供に、空と海と太陽を象徴するAqoursの唄が来年もある。今年の夏を楽しく過ごした我々にとって、それはとっても幸せなことなのではないでしょうか。
 
 
最後に、最初の記事での問いかけをもう一度。
 
 
夏は、お好きですか?
 
次回は…デュオトリオ、もう少しだけ続きます。

*1:参考:新版「音楽の理論」 門馬直美-箸 音楽之友社

*2:彼のエモが爆発するライブ感想記事は臨場感に溢れていて必見です!!!http://akino-oniku.hatenablog.com/