"気付き"の範囲と姉の嘘:北海道編・前編
皆様こんばんは。十六夜まよです。
ラブライブ!サンシャイン!!TVアニメ2期 第8話「HAKODATE」、今回も素敵な回でしたね。
兼ねてより"黒澤姉妹推し"を主張している私十六夜まよとしては、デュオトリオの「真夏は誰のモノ?」や2期第3話の「MY舞☆TONIGHT」に続き、「姉妹回」となった今回は本当に感慨深かったです。そして多くの気になる点もあり、後々のため感想を記事にして残しておくこととしました。
挿入歌は存在しなかったので曲考察はありませんが、次週第9話での挿入歌発表が期待されるため、その前段階としての役割も兼ねております。
注)一部登場する歌詞はいつものように下線と斜体で引用とします。
●震える指先 知ってても 見ないで
さて、全道民待望の北海道編!ということで、我らが道民の星・Saint Snowが話に関わってくる回でした。
北海道地区大会へゲストとして招かれたAqoursは、本番前にSaint Snowの2人の待つ控室へ顔を出し、挨拶をします。
「皆さんと決勝で戦うのはまだ先ですから。」
と余裕の表情を浮かべる聖良とAqoursとで会話が進行します。
「もう決勝に進んだ気でいるの?」と善子は言いますが、実際前回大会は地区予選をトップで通過し本大会でも8位、今回も予備予選を1位で通過している彼女達は最早北海道地区に敵はいない、と言っても過言ではなく、逆にそれくらいの自信と風格があるからこそ王者足り得るのだとも思います。
しかし、その上で聖良はAqoursに対し
「Aqoursは格段にレベルアップしました。今は紛れもない優勝候補ですから。」
「あのときは失礼なことを言いました。お詫びします。」
と謝罪します。
当時、彼女達から見れば「遊び」だと思われていたAqoursの実力を認め、対等なライバルの関係にある描写を差し込むことで、後に来る決勝大会の「Aqours v.s. Saint Snow」を際立たせ想像させる場面でした。……が。
千歌との握手を経て、「ラブライブの歴史に残る大会にしましょう!」と意気込みを語る聖良。ずっと先を見ています。
そして、足元が、自分達自身のことが見えていませんでした。
姉が活発に会話をしている後ろで、妹の理亞はひたすら曲を聴き込み、本番のイメージトレーニングをしていました。姉から呼びかけられても気付かない程に集中して、です。
それ程までに神経を研ぎ澄まさなければならない理由は何か、直後に小刻みに震える手が描写されることで視聴者には緊張していることが伝わります。
そしてその出来事は、唯一ルビィにだけ気付かれていました。姉の聖良ではなく、Aqoursメンバーの中でもルビィにのみ、というところがこの回のミソとなってきます。
王者として北海道地区に君臨するSaint Snowとは言えども、やはり高校生。
特に理亞の視点では姉の最後のチャンスとなる今大会は絶対に失敗できない本番の連続となるでしょう。その大切さは地方大会であるとか、予選であることは関係ないはずです。
その緊張やプレッシャーは、自分がこれまでに積み上げた練習を思い出し、本番の成功イメージをし続けることでしか跳ね返せません。
1期第8話や、HAPPY PARTY TRAINのPVでもとにかくストイックに練習を続ける姿が描かれていたルビィにとって、練習を思い出し緊張を鎮めるその姿は、自分とモロに重なったのだと思いますし、だからこそルビィのみが理亞の姿を見て、緊張していることに気付くことができたのかなと考えます。
1期でSaint Snowが発表した「SELF CONTROL!!」にて唄われている彼女達の心境は、そんな姿と重なってきます。
いま全て勝ちたい ただ前だけ見るって決めたよ
敵は誰? 敵は強い自分の恐怖さ
わかるでしょう?
強い怖れを捨てなくちゃ
誓うよ 君を 凄い場所へと連れてくよ
連れていきたい凄い場所。これはきっとお互いがお互いを高め合い、物理的には大会の決勝、その頂点へ。精神的には憧れのA-RISEと同じ景色を観られる、気高い王者の精神へ。
そして、それでも、そこまでの覚悟や決意をもってしても。
ふるえる指先知ってても 見ないで
大切なのは SELF CONTROL!!
緊張は襲いかかります。だからこそ自分を律する(SELF CONTROL)ことで震える指先を見なかったことにして、また、見せないようにしてステージに立つのです。
全ては勝つために。そして己に克つために。
ステージのシーン。新曲「DROPOUT!?」のゾクゾクするクールなイントロが流れると歓声が上がり、2人の姿が現れます。
しかし、この時の表情は対照的で、余裕ある笑みさえ浮かべる聖良に対し、理亞の顔には緊張がありありと浮かんでおり、しかも口元は描写されないという徹底っぷり。
彼女の抱えたプレッシャーは、(視聴者を含む)誰にも見ることができなかったのです。
曲の演奏シーンすらなく、次のカットでは結果発表後の場面へ移ります。
1期で散々ネタにされた「ダンスなう!」の歌詞ですが、今回彼女達にはその「今、踊っている」という瞬間すら用意されませんでした。
「北海道地区に敵はいない」と前述しましたが、歌詞の通り、1番の敵は自分自身でした。そんな皮肉が襲いかかるのも、ある意味謝罪するだけでは禊にはならない彼女達の背負ってしまった負の役割だったとも考えられます。
●気付く人、気付かれない位置、気付く資格
Saint Snowの敗退を受け、これ以降はルビィの表情がピンポイントに抜かれ、何かを思う姿がこれでもかというくらいに描写されます。
前項で「役割」という話が出てきました。
ここから少しメタ視点の話となりますが、今回の話においては、キャラクターごとに役割分担がハッキリしており、その役割に当たらないキャラの動きについては他の役割ができないよう、強めの制約がかけられています。
まずは「黒澤ルビィ」。
彼女には理亞の機微を想い、彼女独自の視点から理亞の思考をトレースし、その心情を慮る「気付く人」の役割を与えられています。
前述した努力の人であることや、3年生の姉を持つ妹であること等、理亞との共通項が多いことがその条件となっているのだと思われます。
そして「黒澤姉妹を除く7人のAqoursメンバー」。
彼女達はそういったルビィの動き、悩みや背負う気持ちについて今回は「気付くことができない」立場に固定されます。これは後述しますが、状況とルビィの動き方によるもので、彼女達が冷たいとかルビィを蔑ろにしている、という意味は含まれません。
最後に「黒澤ダイヤ」。
彼女が今回の物語の中で唯一「ルビィの機微を捉えられる」人物となります。何故彼女なのか、は彼女がルビィの姉であるからというもう一つの役割分担によって決定されたものだと思われます。ある意味では彼女の持つ資格、と言い換えても良いかもしれません。
ちなみに私達「視聴者」は、限りなくダイヤに近いポジションとなります。逆に言うと、視聴者から見えている情報のほとんどは、他のAqoursメンバーには見えていないことだということになります。
さて、本編に戻りましょう。
会場から出る際、やはり何かが引っかかる様子のルビィですが、彼女は最後尾にいて物思いに耽っているため、その姿は他のメンバーには映りません。
ですが、「唯一気付くことができる」ダイヤだけは振り返ることで彼女の姿を確認し、何か思うところがある様子です。
続く市電のシーンでも、会話中は横並びに座っており、お互いの表情は確認しづらい様子です。特にルビィの向かいにはダイヤしかいない、という状況です。
そして恐らく意図的にですが、黒澤姉妹の姿が画面から外されることで、視聴者目線でも彼女達の動きが判りづらくなっています。
「やっぱり会いに行かない方が良いのかな?」という千歌に対して、
「そうね!気まずいだけかも……?」と気を回す善子。やはりこういった場面での気遣い能力は彼女に勝るものはいないでしょう。
それでも、ルビィの機微に今回は役割上気付くことができません。
「あの2人なら大丈夫だよ。」「仲の良い姉妹だしね。」
と実際はさほど根拠にならない理由で無理に納得する方向に持っていこうとする曜と梨子。
その会話を受けてルビィのこの表情。仲の良い姉妹だからこそ、という結論をルビィはこの段階で出しているのだと思います。
ここからの描写、本当に細かくて美しいので1カットずつお送りします!!!
同じく何か思うところがありそうな姉を見るルビィの視点。
見ていることを姉に気付かれます。ホクロが麗しい。
思わず顔を伏せ、視線を逸らすルビィ。
そして目元のアップ。どうでもいいですけどこの2人の瞳の色、めちゃくちゃ好きです。
会話でもない、ただ視線が交差し表情を伺っただけの一連のやり取りで、ダイヤの目には何かの確信めいた気付きが生まれます。
少し話が逸れますが、皆さんにはきょうだいはいますか?
私は弟と妹がいるのですが、親とはまた別にきょうだいという存在には特別な絆を感じます。
劇中で千歌が言っているように「あまりにも自然に、生まれた時からずっといる」存在が姉であり、兄弟姉妹です。
ことフィクションの世界において、そういった魂レベルでの繋がりや血縁、絆といったものは言語や感覚を超越し、不思議な力で意思疎通をしたり困難に打ち克ったりします。
私はそういう作品や描写が大好きで、ラブライブ!サンシャイン!!に限らず他の作品でも兄弟愛や姉妹の絆がテーマとなった物語は大好きなので、黒澤姉妹に惹かれた理由も、そんなところからなのかなと思います。
閑話休題。
姉妹に宿る超常的な何か。今回は特にダイヤにその力が与えられ、ルビィの機微に気付くことができる資格を得て、間接的に物語を動かす役割となっています。
同じ姉の立場から、理亞の緊張に気付けなかった(もしくは、「知ってても見ないで」いた?)聖良とは対比の構造が生まれていますが、このあたりがどう活かされるかは第9話次第といったところでしょうか。
翌日、五稜郭タワーではしゃぐメンバーを尻目に、ここでも丁寧にルビィだけが他メンバーの視界に入らない位置で暗い表情を見せています。
ルビィが皆の視界の外にいるのと同時に、他メンバーは周囲の新鮮な北海道の景色にまさに「目を奪われ」、ルビィどころではない、というのも「ルビィの動きに気付けない」原因のひとつになっているのだと思われます。
沼津で暮らす女子高生が、自分たちの力で勝ち取った名声でゲストとして遠い北国へ招待されているなんて状況は、浮足立って観光に一生懸命になるのも仕方のないことなんですよね。
基本的に最後尾で1歩引いているルビィの姿、表情は、やはり上手にステルス状態を続けます。
あの花丸でさえ、寒さでいっぱいいっぱいなのです。後ろでルビィがこんな顔をしていても、やっぱり気付きには至りません。
そろそろくどいと思われるかもしれませんが、ここのシーンの明暗も非常にハッキリしています。
予選の件で理亞のことを気にし続けるルビィ。
強い想いが距離や空間を埋めて、心だけでなく物理的な隙間さえも縮めるラブライブ世界のルール*1に則り、このルビィの気持ちは1つの偶然を引き寄せます。
ここでAqoursとSaint Snowが、と言うよりもルビィと理亞が再会するのは必然だったと言えるでしょう。
●妹を想う姉の嘘
Aパートでは視聴者にひたすらにルビィの挙動を追わせ、それに気付くのはダイヤだけ、という状況が描写されていました。
Bパートはまず、姉が妹を想いなかなか口に出せない本音に注目していこうと思います。
ダイヤから「残念でしたわね……昨日は。」と話題が切り出されたのも、何かしら気にしていそうなルビィを想ってのことだったのでしょうか。
理亞は話題にされたくないのか、「食べたらさっさと出ていって!」と突っぱねます。
こういった要所々々でルビィが画面に描写されないのは、やはり全員の視点が彼女へ向いていないことを暗喩しているのだと思います。理亞の言動が注目を集めていますしね。
「いいんですよ。ラブライブですからね、ああいうこともあります。私は後悔していません。」
この聖良の台詞、潔さは王者の風格とも取れますが、本心ではきっと嘘なのだろうな、と私は考えています。
「だから、理亞もきっと次は。」
と続いているのですから、彼女は理亞の次のステージのことを考えて、自分が重荷にならないよう、後悔していない等と優しい嘘をついています。きっと姉って、そういうものなんだと思います。
自分は兄ではありますが、やはり年長者として、少しだけ先を生きている者として、すぐ後に続く弟や妹の足を引っ張るわけにはいかない。高校生くらいの年齢でも、そういった矜持みたいなものは持ち、きょうだい達のことは気遣っていた記憶があります。
それに対し、「私は続けない。Saint Snowはもう終わり!」と言い切る理亞。
「だからもう関係ないから。ラブライブも、スクールアイドルも。」
この言葉を受け、再びルビィの細かい表情変化です。
これは完全に予想ですが、理亞のこのスクールアイドルとの決別の言葉を聞いたルビィは、2年前に姉が「もう見たくない」と言い、スクールアイドルから遠ざかった時のことをフラッシュバックさせているのではないでしょうか。何かを感じ、「ぁ……。」と言葉を失う姿は、似た経験を思い出しての硬直のように見えました。
場面転換してラッキーピエロ。「ラッピ」と略すのが道民のスタイルです。
来年度のSaint Snowを心配し、会話するAqoursですが、ここでもやはり視界からルビィが外されます。表情が見えないのは何かを秘めている証。その想いが、いよいよ打ち明けられます。
余談ですが「結局、ステージのミスってステージで取り返すしかないもんね。」という果南の言葉に、1stライブの逢田さんのことを重ねた方も多いのではないでしょうか。
「でも、すぐ切り替えられるほど、人の心は簡単ではないってことですわ。」とダイヤも言うように、本来であればステージが止まったまま動かなくなってもおかしくなかったあの事故。彼女はよく持ち直したなぁと改めて尊敬します。
ともあれ、メンバーは理亞の「もうおしまい」発言の原因を「ミスによる自信の喪失」なのではと結論づけようとしますが……
「違うと思う。」
彼女にしては珍しく強い否定の言葉が場の空気を変えます。
「聖良さんがいなくなっちゃうから。お姉ちゃんと一緒に続けられないのが嫌なんだと思う。お姉ちゃんがいないなら、もう続けたくない、って。」
これは理亞がそう思っていることの予想であると同時に、どこかで彼女自身も思っていることとも取れます。
μ'sが終わりに向き合ったように、Aqoursも大会優勝の先を見た時の「その先」を考える段階に入りつつあります。ルビィ以外にも、そのあたりを考えていくメンバーは今後出てくるのかもしれませんね。
兎にも角にもそんな考えをもっていたことを打ち明けたルビィ。メンバー全員が驚きをもって彼女を見ます。
我々視聴者からは、ルビィが何かを考えているのだろうという姿は散々見えていましたが、前述の通りダイヤ以外のメンバーはそれに気付けない状態でした。そんな中、突然考えを打ち明けたルビィの姿は、他メンバーからはどう見えたでしょうか。
驚嘆・唖然といった感情がきっと多く混じると思います。そうなると場の空気に耐えかね、店を飛び出す姿もルビィらしい行動だと思うのです。
「やはり、そんなことを考えていたのですね。」と言わんばかりのダイヤ。
●もう一人の姉の嘘
いよいよ黒澤姉妹の会話シーンです。ここからが本番です。
姉としての役割・資格を与えられた今回の話にとって、ここでルビィの話を聞きに現れるのがダイヤであることは必然と言えるでしょう。
1年生や千歌、鞠莉等他にもルビィや周囲に対する気付きに長けたキャラは多いですが、今回はその役割に無い、というのは前述の通りです。
突然店を出たルビィに対して他メンバーは動揺したかもしれないですが、その場でここまでの段階においてルビィの動きに気付けていたダイヤは、恐らく即座に「大丈夫です、わたくしがなんとかしてきますわ。」と場を静めることができたはずです。
ルビィの分のコートをしっかりと持ち、追ってくるダイヤ。
本筋と関係ない上に良いスクショが無かったのですが、ダイヤのマフラーと手袋が赤単色ではなくピンクとのミックスなのが姉妹感出てて本当に良いです。ほっこりしますね。
「理亞さんに何か言われたんですの?」
この問いかけは別にそうではないと思いつつ確認したものだと考えられます。ルビィが自分なりに考えて導いた結論であることには、直感的に気づいている……それは、これまた姉としての"不思議な直感"なのかなと感じます。
ラブライブ!において度々使用される「光の当たり方」の演出はこの場面でも顕著に使用されていますね。
悩みを抱えたルビィは陽を背負い逆光に座り、聴く立場のダイヤは正面から光を受けています。
「お姉ちゃんも、決勝が終わったら……?」
「それは仕方ありませんわ。」
「でも、あんなにスクールアイドルに憧れていたのに、あんなに目指していたのに。もう、終わっちゃうなんて……。」
そう涙を流すルビィ。作画も相まって本当に美しいですよね。
自分自身の淋しさももちろんあるでしょうが、この時の涙はやはりダイヤを想い気遣ってのものでしょう。黒澤ルビィという人間は、いつだって人のために泣くことができるキャラクターだと、私は考えています。
その解答としてダイヤは
「わたくしは充分、満足していますわ。」
と返します。
この台詞、聖良の場面でもありましたが、やはりこれには姉の嘘が混ざっているのではないでしょうか?
ぎゅっと握るスカートの裾は、隠しきれない心情の現れに見えます。
「果南さんや鞠莉さん、2年生や1年生の皆さん、そして何よりルビィと一緒にスクールアイドルをやることができた。」
本来であれば、その想い出は高校3年間のものとなっていたのかもしれません。しかし、彼女の場合はそうはなりませんでした。
「できることなら」「もしもあの時に」そういった考えは、例え全てを受け入れて耐えてきた彼女とて、「そうそう簡単に割り切れるものではない」と彼女自身も先程口にしていました。
それでも姉は、妹のために優しい嘘を吐きます。この時の心の動きは、聖良と全く同じものでしょう。
たまらず抱きつき、「ダイヤからかけてもらった」コートを落とすルビィ。
コートが落ちたのは、彼女が既に姉の庇護から自立し歩くことができているからだと考えます。
「それでラブライブの決勝です、アキバドームです。夢のようですわ。」
この気持ちは本心からのものでしょう。ルビィとの距離は縮まり、庇護を意味するコートは落下しているので、これ以上彼女を気遣い嘘を吐く必要はありません。
そして一転、
「でも、ルビィは、お姉ちゃんともっと歌いたい……!」
そうして泣く彼女の涙は、正真正銘彼女自身の淋しさを表現した涙なのだと思います。
「お姉ちゃんの背中を見て、お姉ちゃんの息を感じて、お姉ちゃんと一緒に汗をかいて……。」
「ルビィを、おいていかないで……。」
この、姉妹という関係に生まれてしまったが故に、絶対に避けられない時間の壁。姉がどんなに努力しても超えることの出来ない理不尽な課題を、臆面なく口にできるのは妹の特権です。そして、かつてはそんなことを言うことすら憚られていた時期もあっただろう2人をここまで言える関係に戻したのは、やはりスクールアイドルの活動だったのだと思います。
私自身は、弟と3歳差、妹と6歳差ということで高校生活の時期が被ることはなく、一緒に何かの活動に打ち込む、というタイミングはありませんでした。
それでも常に人生の節目では先に生まれた者の責任と矜持を持って「先に行って」いたつもりですし、時に「置いていく」ようなこともあったかもしれません。
そんな妹に「おいていかないで」と言われる姉の心情は、本当に複雑で理不尽故にどうしようもなく、それを言われても……と困惑すると同時に、やはりどこかで最高に嬉しいことなのだと思います。
例えワガママでも、理不尽でも。分別がつくこの歳になったからこそ、ダイヤは妹にこの言葉を言われたことが一番嬉しかったのではないでしょうか。
第8話は本当に、1カットで表情の変化を如実に出して心情を表現するシーンが多く美しいですが、この言葉を受けてこみ上げるものをこらえるダイヤは、やはり強くて頼もしいルビィの姉なのでしょう。頑固とも言えるでしょうが、妹の前で不用意に涙は見せない、そんな使命感で涙をこらえるのもまた姉の立場・役割なのではと考えています。
「大きくなりましたわね。それに、一段と美人になりましたわ。」
ここで「美人」と表現するのがとても印象的でした。普段のルビィには「可愛い」という表現が当てはまりますし、ダイヤ自身そういって妹を可愛がっている場面もあります。
黒澤家の教えや生き方の中で、華道や茶道に和琴、日本舞踊等が習い事としてあるのが、日本人の女性としての内面的な「美しさ」を求めるためであるとするなら、「美人になった」、それも「一段と」という褒め言葉は成長を認める上で最高の賛辞なのではないでしょうか。
その後の「今後どうするか」といった会話は、今後のAqours全体を考える意味でも重要になってくることと思います。
姉がいなくなり、学校も無くなる来年、ルビィはどういった選択をするのか。他のメンバーは?
そういった疑問の1つのとっかかりになる部分かと思います。
対してダイヤは
「わからないですわ。その時になってみないと。今はラブライブの決勝のことだけしか考えないようにしていますし。」と「まずは決勝」と話題に蓋をします。
視聴者への、まずは大会の行方を見守っていてね、という釘刺しのようにも感じました。
そして続く「ただ、ただ……。」というダイヤの台詞。
ここで一旦場面を切ったのは、後に姉の本心をルビィの口から理亞に語らせる場面で有効に作用しており、時間を上手にまとめているなぁと感心するばかりです。
鈍(にび)色の、とても"北海道の冬"らしい空。
晴れつつも厳しさが見え隠れするその色は、まだ問題解決を迎えていないもう片方の姉妹を暗示してのものでしょうか。
●他2組とは少し違う高海姉妹
夜になり、場面はようちかホテル。
「どんな感じなの?お姉ちゃんって。」
という曜への問いかけに対し、千歌は
「うちはあんな感じだから」
と答えになっていない答えを繰り出します。
実際幼い頃から高海姉妹と付き合いの深い曜には、それで通じるのかもしれませんし、それで通じる関係、というのがまた「姉妹」というものの不思議な絆を示しているという気がします。
1期第3話のライブシーンで駆けつけた美渡のシーンは、実は私も結構好きな場面でした。
この時の美渡が優しく見守る表情、千歌が心底安心したであろうことがわかる
「あぁ、美渡ねえだ……!って。」という台詞。
この台詞も実際そこまで具体的なことを説明していないのですが、なんとなくそんなものだよね、と通じる力強さがあります。
そして、兄の立場からはこの美渡の顔が本当に良い顔に思えます。
口では「あんたには無理」というようなことを言いつつ、輝きへの第一歩を踏み出した妹を見守る表情は、慈愛に満ちて深い愛情が感じられます。
千歌の場合は姉と同じ高校に通うほど歳が近くはないので、黒澤姉妹・鹿角姉妹とは状況が少し違っていますが、姉妹の絆を表現するエピソードとして、喧嘩ばかりの高海姉妹という対照的な立場からの「姉妹」の説明が入ったのはメリハリがついて良かったのではないかなと思います。
●妹たちの姉自慢大会(かわいい)
ルビィが一人で出かけたらしい、という善子と花丸の会話ですが、ここで彼女を気にする素振りもなくふとっちょバーガーを食べる花丸について色々言われていますね。
ですが、この記事をここまで読んでくれた皆さんにはこの場面の彼女の行動にも説明はつくのではないでしょうか。
徹底してルビィが深刻な面持ちでいる様子は視界から外れており、物語の性質上、それに気付くことができるのは血の繋がった姉妹であるダイヤでなければなりません。
時に過保護と思えるほどにルビィを心配し、尊重し配慮を重ねる花丸の性質は、1期第4話でルビィを羽撃かせ、さらに自分がそのルビィに誘われる形でAqoursに入った時点で対等なものとなっており、良い意味での気を使わない関係性が築かれていったのだと思います。しかもそれから約半年が経過しています。
恐らく善子を含めた3人での相部屋でしょうから、出かける際にルビィは必ず声掛けしているのでしょうが、突然の外出について花丸が多少心配したにしても、昼の問題はダイヤが対応済み、そしてルビィへ買ってきていたハンバーガーを「いらない」と言ったことからすぐ帰るつもりではないことを察し、一人で行くつもりである旨は話の中で気付いているのでそこは深追いしない。そんなやりとりが出発前にあったのだろうと考えられます。
何かを思うルビィを放ったらかしてそんなことができる子じゃない、という意見もありますが、このように考えると、より血の通った、深い友情が育まれているのだと考えることもできるのではないでしょうか。
あくまでもこれは1考察に過ぎませんが、心配するだけが友情ではないというのは皆さんにもご理解頂ける経験があるかと思います。
ともあれ。そのような経緯で一人で外出してきたルビィ。向かう先は昼にも訪れた鹿角姉妹の店です。
孤独に函館の街を歩くルビィを描写しつつ、昼のダイヤの台詞の続きが明かされます。
「ただ、貴女がわたくしに、『スクールアイドルになりたい』って言ってきた時、あの時、すごく嬉しかったのです。」
「わたくしの知らないところで、ルビィはこんなにもひとりで一生懸命考えて、自分の足で答えに辿り着いたんだ、って。」
妹の成長を喜ぶ姉の想いが、ここで初めて語られます。
1期第4話で明確にはされなかった姉妹での会話内容が、ここではっきりとしたわけですが、内容についてはほぼ想像通りだったと思います。
ひとり夜の街を歩く姿は、その「自分の足で答えに辿り着く」姿を強調していますし、今まさにそれを実行しているルビィの強さが、姉の肯定をさらに力強いものとします。
そしてこの言葉は、ルビィに何かしらの気付きを与えたようです。
鹿角家を訪れたルビィ。
「あの……ルビィ、黒澤ルビィです。」
とお辞儀をする姿は、一人称が自分の名前だったりと多少拙くはありますが、黒澤家の次女として恥ずかしくない、立派な振る舞いだと言えるでしょう。基礎ができている娘さん、本当に良いと思います。
「ルビィにもお姉ちゃんがいて……。」
と自分も同じ妹であることから会話を切り出すルビィ。それに対して理亞はダイヤの名前を挙げ、
「一応、調べたから。Aqoursのことはね。」
と返します。その上で理亞らしいのは、
「でも、私の姉様の方が上。美人だし歌もダンスも一級品だし。」
と突然の姉自慢を始めてくるところです。それを口火に、
見てくださいこの顔。かわいい。姉自慢大会の幕開けです。
ここの台詞全部可愛いんですけど、特に
「必要な基礎は同じだって、果南ちゃんも言ってたもん!」
と「姉が果南にも認められている」という実のところ外の人間にはすごいのかすごくないのかはっきりしないものを根拠として持ってくるところにムキになっている必死さが見て取れて、ついでに果南への信頼がさらっと感じられる台詞となっておりお気に入りです。
「そんなことないもん!」の言い方も本当に可愛いです。かわいい。
そして引き出した
「でも、私の姉様の方が上!」
という言葉。そこまで心配は無かったのでしょうが、それを聞いてルビィも
「やっぱり、聖良さんのこと大好きなんだね。」と安心した声色で会話を続けます。
彼女にとって1番恐れていたことは、今回のことを通して理亞が聖良のことを嫌いになってしまうことだったのではないでしょうか。
傍から見ると余計なお世話なのですが、それでも同じ境遇の妹として、一度スクールアイドルを切っ掛けに姉との関係が壊れかけた者として、鹿角姉妹には仲の良い姉妹であって欲しい、そんな少しのワガママが、今回のルビィの悩みの核であり、原動力だったのではと思います。
続けて、
「当たり前でしょ!? アンタの方こそ何?普段気弱そうなくせに!」
と返す理亞に対してルビィから核心ど真ん中、ストレートなトドメの一言。
「だって……大好きだもん。お姉ちゃんのこと。」
これです。これなんです。
こんな妹のお姉ちゃんになりたい。
高校生にもなり、少し背伸びしたり大人ぶったりしたい難しい年頃の女の子が。
家庭の事情で少しだけ周りとは違う境遇で育ち、恐らく常に姉と比較され続けてきた妹が。
恥じらいなく優しい笑みを浮かべながら放つ「大好きだもん」という言葉にはどれほどの愛情と慈しみが詰まっていることでしょう。
家族だからこそのこの感情は、同じ妹の立場にある理亞と絶対に同じ感情であるという確信が持てるからこそ、ルビィはこう堂々と言えるのです。
「それでね。ルビィ、お姉ちゃんと話してわかったの。」
「嬉しいんだって!お姉ちゃんがいなくても、別々でも、頑張ってお姉ちゃんの力無しでルビィが何かできたら嬉しいんだって。きっと、聖良さんもそうなんじゃないかな?」
「妹が自分の足で答えに辿り着く」ことが嬉しいと語ったダイヤの言葉はルビィの口から理亞へと伝えられます。
歳が近くて同姓の姉妹ならでは、という感覚がありますが、やはりそういった姉の願いというのは共通するものなのでしょう。
理亞の答えは
「そんなの解ってる。だから、頑張ってきた。姉様がいなくても一人でできる、安心してって。」
「なのに、最後の大会だったのに……!」
理亞が1番悲しく、淋しいところはこの部分でした。最後の大会でしっかりと「自分の足で歩いている」姿を見せ、姉には安心して活動を終わって貰いたい。
姉が自分の自立を願っていることがわかるからこそ、それが上手くいかなかったことへの悔しさと申し訳無さで塞ぎ込んでいたのです。
聖良は「私は後悔していません」と語りましたが、理亞にとってそれは充分な条件ではないのかもしれないですね。
ですが、一歩先に「自分の足で答えに辿り着く」力を得たルビィはさらに先へ進みます。
「じゃあ、最後にしなければいいんじゃないかな!」
完全に主人公です。ラブライブ!の主人公ですよこういう言動は。
「残酷な結果に直面しても諦めずに足掻き切り、自分たちだけの輝きを見つける」という「敗者の勝利条件」を手に入れたAqoursの魂は、しっかりとルビィの中にもありました。
納得できない終わり方なら、さらに機会を作って終わりにしなければいい。自分で作り出した「最高の終わり」を、本当の終わりとして飾ればいい、という、「大会で勝つ」ことを至上命題としてきたSaint Snowには恐らく辿り着けない境地。
直前の第7話で目的を見失ったAqoursへ浦女の生徒達が新たな目的を示したように、今度はAqoursが同じように道に迷う存在を導き、輝きを伝えていく。
μ'sは「SUNNY DAY SONG」で太陽のように全てのスクールアイドルへ福音をもたらしましたが、Aqoursは横に横に伝わる波の力で、近くの存在を奮い立たせ、その動きを大きくしていきます。
μ'sとは違う、「Aqoursらしい輝き方」が、徐々に発露し周囲へ影響を及ぼし始めてきました。
ラストカットは、水色とピンク、Saint Snowのイメージカラーでライトアップされたイルミネーションの前です。相変わらずEDテーマのイントロの入りは素晴らしいですよね。
「歌いませんか?一緒に曲を。お姉ちゃんへ贈る曲を作って、この光の中でもう一度!」
主人公ですかねこの子は(2回目)
実際のところ、ルビィがここまで心強い、主人公かのような動きができるのは間違いなく「成長」であり、Aqoursとして悩んだこれまでと、姉から背中を押された自信とで力いっぱい羽撃いている状態です。
視聴者はダイヤの目線に近い、と役割の項で説明しましたが、やはりルビィのこの成長を観て、感じることで嬉しい気持ちになれること。それを見守り応援すること。
私達視聴者の第8話における「役割」は、このシーンを見届けることで終わりを迎えるのだと思います。
●エピローグ及び今後の展開予想
余談となりますが、黒澤姉妹と鹿角姉妹の共通項について。
ダイヤ・ルビィと命名されたこの姉妹は度々同名の宝石と結び付けられて考えられますが、この宝石は炭素や酸化アルミニウム等の無機物が結晶構造を作ることで安定し存在しているものです。
対して鹿角姉妹がグループ名に冠する「Snow=雪」も、知っての通り水が結晶構造を形成したもので、これらは共に光を受けて眩しく煌めきます。
一方はμ'sから、もう一方はA-RISEから憧れという光を受けてスクールアイドルとして切磋琢磨する存在。
2歳差の姉妹で、スクールアイドルで、輝く名前を持っていて……色々な共通点を与えられた2組の姉妹が北海道の地で交流を深めていくシナリオは、デザインが生まれた当初から考えられていたものかもしれませんね。
そしてEDのカットは予想通り黒澤姉妹でした。なんかもうこの画だけで泣けちゃうので本当にズルいです。
第4話でダイヤがバスから降りなかったのは、ずっとルビィを待っていたんですよね。
さて今回は、ルビィ及び理亞にだいぶ寄せた内容となっており、後編となる次週では姉コンビ、特に聖良の心情の描写がどういう風になるのか、楽しみなところです。
今回口数の少なかった彼女の想いが語られる場面はきっとあるはずです。
さらに、この話を通して提示された「ラブライブが終わったらどうするか」というスクールアイドルにとって避けられない命題について。
Saint Snowの2人は、期せずして一足先にその段階へ踏み込み、第9話でその答えを出すのかもしれません。その姿を受けて、黒澤姉妹は、そしてAqoursメンバーはそれぞれ何を思い、行動するのか。そのあたりも注目していきたいですね。
そして第9話挿入歌は、誰の曲になるのでしょうか。
話の通りにいけば、ルビィと理亞が姉へ贈る想いの歌になります。
イルミネーションされたクリスマスツリーが描写されたので、Aqoursのクリスマス曲、「ジングルベルが止まらない」か、「聖なる日の祈り」の可能性もあるかなと思います。
もしくは、黒澤姉妹×鹿角姉妹による新曲なんかも話の流れから考えられますし、ラブライブ!サンシャイン!!の挿入歌とするために最終的にAqoursの曲となる可能性も否定できません。
ただ、今回Saint Snowの新曲が2曲も発表されていて、ショートサイズすら劇判として存在しないだろうこと(OSTには収録されない?)と、12月20日に正体不明のアニメ挿入歌シングル(2000円という謎のお値段。3曲入り?)の発売が予定されていることを考えると、そのCDにはSaint Snowの新曲とともに第9話挿入歌が収録される可能性もあり、そうであれば、Aqours全員が歌う曲である必要は無いように思えます。
MY舞☆TONIGHTのジャケットに黒澤姉妹が居なかったことを考えると、そのシングルのジャケットは黒澤姉妹と鹿角姉妹が飾る?という可能性さえありますね。
そんな可能性の広がる想像が色々できる第9話も、今週末の放送となります。果たして鹿角姉妹に笑顔は戻るのか。聖良の本音は明かされるのか。ルビィと理亞の辿り着いた「姉への歌」とは?
本当に楽しみです。
黒澤姉妹と同じように、鹿角姉妹にも幸せがありますよう。心からの願いを込めて、終わりとさせていただきます。
次回は北海道編・後編「Awaken the power」。
Aqours1年生&理亞の1年生カルテット。やりとりを想像するだけでほんわかします。
鹿角理亞、かわいいぞ……!
というところでまた次回。長い文章にも関わらずお付き合い頂いてありがとうございました!
挿入歌が来れば、曲考察もやっていこうと思います!
(12/1追記)番外編書きました。かるーい記事なのでおやつ感覚でどうぞ。
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アニメ描写から見る冬の北海道の歩き方:北海道編・番外編 - AQUARIUMと愛のうたをめぐる冒険
*1:TVアニメオフィシャルブックより