P.S.「ありがとう」:旅立つあなたへ贈る唄
皆様こんばんは。十六夜まよです。
唐突ですが、単発で楽曲考察をしてみようと思います。
今回のテーマは
P.S.の向こう側 Sounded by CYaRon!
です。
Aqoursから派生する3人組ユニットのうち、千歌・曜・ルビィからなるこのユニットは、正統派アイドル!といった感じの可愛らしい曲と、シリアスな顔がギャップの魅力を生むバラード曲とを巧みに操る元気系ユニット、といったところでしょうか。
そんな彼女たちの楽曲の中でも熱狂的なファンが多い(?)この曲は、様々な観点から歌詞考察ができ、私の親交の深いフォロワーさんの中にも素敵な記事を書いている方がいます。
ぺこさん(@pecopeng)の書いた以下の記事は、読んだことのある方も多いのではないでしょうか?
この記事でぺこさんが語る「次元超越説」は非常に興味深いもので、楽曲の持つ可能性や歌詞の広がり、キャラとキャストが2人3脚で成長していく2.5次元コンテンツにおいての相互作用やさらにはコンテンツ終焉後の行く末等、深い考察が歌詞に沿って非常に納得のいく形で展開されていますので、まずはご一読をお願い致します。
ぶっちゃけこの曲についての解釈はぺこさんのこれで十分というような気が私自身してしまっていたりもするのですが……。
実はこの曲、私も結構好きです。CYaRon!の魅せる可愛い中にもアンニュイさや淋しさが滲んでくる絶妙な表情感は他の曲では味わえないものですし、描写されている世界観が本当に柔らかく、温かい。
だからこそ私は、別のアプローチでこの曲を読み解いていきたいと思います。
ぺこさんの記事を読む前に実際に私の頭のなかで展開されていた解釈を、TVアニメ2期が終わったこの段階で根拠を補強する形でアウトプットしようと思いますので、お付き合い頂ければ幸いです。
注)歌詞はいつものように下線と斜体で引用とします。
●手紙の行方
まずはポップなイントロからスタートするこの曲、Aメロ→Bメロの間はロ長調での展開だと思われます。このロ長調という調性は「積極的になると、大胆な誇りを表し
消極的になると清潔な純粋さを出す」と評されることがあり、この曲の持つ明るく動的なアクションと、ピュアでもの淋しげな感傷との2面性が見事に表れていると思います。
誰もいない カフェのテーブル
頬杖ついて考える
どうしてるかな 君は今ごろ
誰と過ごしてるの?
というルビィパート、この「君」が誰であるかは曲の解釈において注目点となりそうです。
この時「誰もいない」というのは、この曲の主人公が誰かと相談するわけではなく、ひとりで考え事をしている、ということが想像できますね。
なんとなく さっき買った
ポストカードを取り出して
「お元気ですか?」 書いてみたけど
次の言葉が探せない
千歌のこのパートではポストカードが登場します。「なんとなく」という気分は「さっき買ったポストカード」にかかっているように感じられて、何らかの目的を持った主人公がポストカードを購入することを決め、何かのメッセージを書き始めたことが推察できますね。
毎日 話しても足りないって 思ってた
曜のアンニュイなこのパートで、毎日話しても足りないと思ってた存在と、次の瞬間には「毎日話せない」関係になってしまう、別れが近いことが想像できます。
サビからは転調が入り、メロディのイメージもガラッと変わってきます。
調性は変イ長調、「夢想的で繊細、抒情的で壮麗」と表現される調です。
いまは遠いんだね さみしい気持ちで
つめたくなった 紅茶飲んでるよ
でもいつかいつかね
また会える気がするからさ
落ち込んでないよ
「さみしい気持ちで」と唄った直後に「落ち込んでないよ」というのは矛盾した感情ではあるのですが、淋しさを感じないわけもなく、だけど彼女たちは落ち込む素振りは見せずに、別れを迎えねばなりません。
「今は遠い」という心境は未来の自分たちを想像してのことか、ここは少しだけ、楽曲としてのアンリアルな部分が含まれる表現だと感じています。
「いつかまた会える気がする」という表現は、決して近くはない場所へ相手が行ってしまうことを逆説的に表現しているように感じられ、希望を持つような歌詞が逆にその淋しさを引き立てます。
こういった心の機微を繊細に表現するメロディはそれでもなお明るく、テンションの高い構成となっており、こちらでも裏に潜む淋しさが強調される形となっているように感じられます。
手書きだと照れちゃうね
ちいさな文字をながめ
だんだん下手っぴになってきたみたい
ボールペン くるりとまわした
2番頭は曜のソロパートからです。
現代の女子高生として描かれる彼女たちの普段のやり取りは、やはりメールやメッセージアプリなのだと思います。そんな中で敢えて手書きでのメッセージを贈るというのは照れもあるのでしょうか。
「下手っぴ」という言葉のチョイスがすごく可愛くて、等身大の魅力が溢れてきますよね。真剣に相手を想うからこそ、その字が下手に、不格好に見えてきてしまい、息をつくためにペンを回す。適当な手紙ならば、文字が下手っぴであることなんて気になりません。
離れてしまうなんて
ありえないことだよと 笑ってたね
こうやって笑いあった仲であっても、自然と時間は流れて別れはやってきます。
だからこそ、
最後にひとこと オマケみたいに
伝えておこう (P.S.…)
「どうもありがとう」
だっていつかいつかね
また会えるはずだからきっと
その日を待ってる
伝えるべき一番の言葉は「感謝」。
さあ、このP.S.が届く先、即ち「向こう側」にいるのは誰?という話になってきます。
●一瞬の気持ちの揺らぎ
前述のように、この曲は別れを迎える関係性を前に感謝とありったけの愛情を伝える物語を唄うものです。
そんな気持ちを伝えるため、少女たちは精一杯の明るさで一抹の淋しさを隠し、アップテンポなメロディを奏でるのですが……。
曲中に1箇所だけ、「淋しさ」の方が表に出て隠しきれなくなるポイントがあります。
返事なんかいらないけど
楽しかった季節
すこしだけ思い出して
胸がしめつけられて
切ないんだ
それがこのCメロ。
伴奏のメロディもこの瞬間は凪のように一瞬鳴り止み、3人の歌声だけが響きます。
「返事なんかいらない」から、せめて「すこしだけ思い出して」と願うのは、「楽しかった季節」。
再びのぺこさんです。
「季節」の解釈についてはぺこさんの記事でこの上ない説明がされているので、こちらを引用させて頂きます。
「楽しかった季節」の「季節」という言葉。ラブライブ!及びラブライブ!サンシャイン‼の楽曲では度々出てくる言葉で、私がとても好きな言葉です。
ラブライブ!シリーズの楽曲における「季節」という言葉は、単に春夏秋冬という意味ではなく特定の期間、瞬間、時間の流れといった意味を含みます。
この場合は「楽しかった季節」。昔の、「君」と一緒に過ごしていた時間、ということでしょうか。スクールアイドルである彼女たちの目線で考えると、それはスクールアイドルとして輝いていた瞬間と捉えることもできますね。
春夏秋冬それぞれの想いを紡ぎ、走りきった1年間。ともすればこの「季節」は「四季」。つまり1年間のスクールアイドル活動と取ることもできそうです。
では、3人が別れを告げる、スクールアイドル活動を共に過ごした人たちとは?
結論へといく前に、もう少しだけ曲を見ていきます。
大サビは1番2番のサビの繰り返しですが、
でもいつかいつかね
また会える気がするからさ
気のせいかもね
で少しだけ変奏があり、勢いを保ったままサビのメロディが繰り返される演出はポップな音使いをしながらも滝が落ちるような強烈な圧力をもたらす効果があり、ダメ押しと呼ぶに相応しいラスサビへとエネルギーを高めていきます。こういうの大好きですね。
歌い出しや、ライブの立ち位置から考えると、センターはルビィなのだと思います。
それでは、この曲は姉であるダイヤに宛てたものでしょうか。
それともCYaRon!が歌っていることを鑑みて、将来進学などで内浦を離れた曜を想い、千歌が歌う曲でしょうか。
それぞれそういった解釈も可能だと思いますし、聴く人の数だけ曲の世界は存在するはずなので先のぺこさんの解釈も含め、色々な可能性を考えながら曲に触れるというのは大変おもしろいことだと思います。
ではいよいよ、この曲にまつわる物語を、私の視点で展開していきましょう。
●3月、ある日の浦の星
「「「引退式?」」」
部室に揃ったメンバーが口を揃えて私に疑問符を投げかける。
まあ……いきなり言われても何のことだかわからないよね。
千歌「そう、引退式だよ、引退式!私達は部活動としてAqoursをやってきたでしょ?」
梨子「それと引退式?ってどういう関係が……?」
千歌「だから!どの部活も、最後の大会が終わったら3年生とのお別れ会みたいなのをやるでしょ?私達スクールアイドル部も、3年生の引退式をやる必要があると思うんだ!」
曜「あー……たしかに言われてみれば、そういう部活がほとんどだよね。水泳部でも夏の大会の後にはやってたかも。」
ルビィ「ラブライブ決勝大会が3月だったから、バタバタしてそれどころじゃなかったもんね……。もうすぐ卒業式で、そっちのことばかり考えちゃってたし。」
善子「なるほど。それで1,2年生だけが集められたってことね。クックック……我が眷属の旅立ちを祝福する最後にして最大の儀式、この堕天使ヨハネも全身全霊をもって……。」
花丸「善子ちゃんがやる気で何よりずら。でも千歌ちゃん、時間はあまりないよ?」
「ヨハネよっ!」という善子ちゃんのいつものセリフを聞きながら、私は皆にアイディアを説明する。
「--手紙と、唄が良いと思うんだ。」
と、いうわけで、少々私の妄想を垂れ流してみました。(やっぱりSS書くの難しいですね)
皆さんは学生時代に部活動をやっていましたか?
スクールアイドルに限らず、全ての学生の部活動やサークル活動には必ず期限があり、時が来れば最高学年の部員は引退という形で部を去ることになります。
大会の時期やその部の活動時間によってタイミングはまちまちだとは思いますが、いずれはその時が訪れ、部に残る他学年に送別される形で彼らは引退していきます。
そんな部活の引退式、心のこもった手紙や色紙等……温かい想いが、部に残るメンバーからプレゼントされるものではないでしょうか。
例えば私が所属していた合唱部では、3年生の引退によせて1,2年生は1曲新たな曲を練習し、引退の手向けとして演奏したりしました。
人数が多い部活だと色紙に寄せ書きをするパターンが多いですが、9人のAqoursだったら、手紙やポストカードといったメッセージを個人で用意することになるかもしれません。
そして浦の星女学院のスクールアイドル部でも、その例に漏れず3年生の引退式がひっそりと行われるのではないでしょうか?
もうおわかりかと思いますが、この「P.S.の向こう側」は、そんな3年生の引退式で、3つのうち唯一「3年生が含まれない」ユニットであるCYaRon!が手向けとしてプレゼントする、送別の1曲なのではないか、というのが私の解釈となります。
善子と梨子、花丸はそちらも3人でチームを組むかもしれませんし、それぞれ独自の方法で何かを用意するかもしれません。
ですが少なくとも、CYaRon!の3人はアイドルとして、今後も部に残る(浦女が廃校した後のAqoursの所在については明言されていませんが、ここでは特に気にしないこととします)メンバーとして、今できる精一杯のことは何だろう?と考えたときに「曲をプレゼントしよう!」となるのは自然のことかと思うのです。
そして同時に手渡されるメッセージカード。それを作成する際に悩んだり、淋しくなったり、そんな物語が紡がれた1曲。
サプライズ的になるのでしょうか。部室に3年生を招待し、突然始まるパーティ。
3年生へ口々に告げられる感謝の言葉達。
そんな中、あの軽快なイントロが流れ出し……。
曲の最後にはきっと、「ありがとう」の言葉とともにポストカードが手渡されるのだと思います。
真剣な想いを込めた、唄と手紙。
P.S.の向こう側には、苦楽を共にした最上級生、3年生の3人がいるのでした。
以上、如何だったでしょうか。
「こういう解釈もありだよなぁ」と、一つの可能性の形として。
いつかこの曲に再び触れた時に、そんな浦女での日常の一コマを「すこしだけ思い出して」貰えたら嬉しいな、と思います。
だらだらと続けてもこれ以上は説明ができそうにないので、今回はこのあたりで。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!