AQUARIUMと愛のうたをめぐる冒険

AQUARIUMと愛のうたをめぐる冒険

十六夜まよ(@daimarco16)がおんがくを考えるところです

それでも「Come on」と呼ぶ相手は:吹雪と姉妹の円舞曲

皆様こんにちは、十六夜まよです。

 

Saint Aqours Snowの挿入歌シングル「Awaken the power」、いよいよ発売しましたね。

どの曲もフルバージョン音源が解禁となり、予想以上の盛り上がりが2番以降に用意されていて興奮が止まらない!といったところです。

今回はその中でも特に破壊力が高かった、

DROPOUT!? Sounded by Saint Snow

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この曲の分析・考察をしていこうと思います。

アニメ本編の文脈から独立した、曲単体での分析は久々ですね。

……と言いつつ、アニメの描写からの推測も多く含まれますので、実質第8話・第9話の感想の続きとも言えるかもしれません。

 

注)歌詞は例に倣い下線と斜体で引用とします。また、フルバージョン音源の感想が含まれますので、未視聴の方はご注意下さい。

 

 

●もうひとつの「輝き」を求める物語

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TVアニメ1期では「なんとなくイヤな印象のライバル」として登場するも、2期に入り彼女達をピックアップする物語が展開され、その内面や背景が明らかになったSaint Snow

 アニメ本編では敗者として描かれたSaintSnowですが、彼女たちや他のスクールアイドルにも人生があって、矜持があって、物語がある。

 当初、理亞にはあまりいい印象を抱いておらず、「スカしたヤツ、なんかいけ好かないヤツ」というイメージでした。

  #8・#9を観た今ではもうそんなことは言えません。鹿角理亞のファンです。

 「知ることは好きになること」の第一歩、というのが個人的な持論です。

 

 Aqours 1stライブにて伊波杏樹さんが口にした「Aqoursをもっと知ってもらいたい」という言葉、これはAqoursだけじゃなくてSaintSnowもずっと思っている気持ちのはずです。

 そんなSaintSnowを、鹿角理亞を好きになるためにこの物語を作ってくれた、「知る」きっかけを作ってくれて、ただなんとなく散っていったライバル的なキャラで終わらせるのではなく、SaintSnowを愛せるようになったことに感謝したいです。

 

サンシャイン!!2期感想「#9 Awaken the power」篇|肯定ログ

 私の敬愛するブログ書きである瀬口ねるさん(@_Sengnel_)の第9話記事は全編通して素敵で美しい日本語に溢れていますので、是非ご一読を。

その中で「知ることは好きになることへの第一歩」という言葉は本当になるほどだなぁと思ったところですし、鹿角姉妹がここに来てすんなりとファンに受け入れられているのも、本編での彼女達を「知らせてくれる」描写が多かったことが大きな理由となっていると思います。

 

そんな彼女達の曲、「DROPOUT!?」ですが、私は自分の記事内で以下のように「役割付け」を行いました。

ちなみに時系列的には間違いなくこの曲は「ラブライブ決勝に進むため」作られているものなのではありますが、物語の効果として挿入歌という形を取った時に「Saint Snowの敗退の後悔を映すもの」という役割を持つものに変化してしまっています。

冷静に考えればおかしいのですが、だからこそ本編では歌詞が明かされず、その終了後に内容が公開されています。

そのあたりは、演出材料としての挿入歌が持つ役割ということで素直に受け取るのが1番なのではという風に思います。

 

"Come on!!"の喚び声に引き出される可能性:北海道編・後編 - AQUARIUMと愛のうたをめぐる冒険

Aqoursを中心とした物語の上で、挿入歌の意味を考えたときにはこの曲はそう位置づけられる、と考えるのですが、今回はその文脈を一旦横に置いて、純粋にひとつのスクールアイドルグループであるSaint Snowの、北海道地区予選大会で歌われた曲としての「DROPOUT!?」を読み解きたいと思います。

それだけのことを考えさせてくれるエネルギーがある曲だというのが最初に音源を聴いて思ったことですし、とにかく込められたメッセージが重く、切なく、でも暖かい。

彼女達もまた、スクールアイドルとして「輝き」を求めて大会を勝ち上がろうとした物語の主役の一人であり、そこにもAqoursに負けないくらいの想いがある。

そんなことを思いながら、曲を考えていこうと思います。

 

 

●極寒の闇で「見える」光とは

曲を聴いた時に見えてくる風景や色といったものは、皆さんあるでしょうか。

共感覚」といった鋭敏な能力を持った人には、例えば音を聴いた時に色が視えたり、味や匂いを感じたり、といった現象が起こっているらしいのですが、そうではない人にとってもイメージや印象に自分の経験や記憶を重ねることで、曲の表す世界を想像できることがあると思っています。

私はこの曲を聴いた時に、暗闇に冷える雪原と、容赦なく吹き付ける吹雪を感じました。

イントロで柔らかく始まるピアノのメロディも束の間、アップテンポに鳴り響くダブルバスドラムには、風に舞い叩き付けられる吹雪の厳しさが表現されています。

 

「勝って、その頂きに立ち、そこから見える景色を見てみたい」

以前に彼女達がAqoursへと語った大会出場への動機は、ともすれば勝利至上主義にも見え、「楽しむことは輝くこと」とするAqoursとは相反するもののように思われました。

しかし、言わば「スクールアイドル戦国時代」ともなったサンシャイン!!の時代では「楽しむ」程度の動機では先に進めなかったのも事実であり、夏の大会ではSaint Snowが本大会へ出場する中Aqoursは地区予選敗退と、結果の差が出ているところでした。

その後Aqoursは様々な経験から「自分たちの輝き」を見出して決勝へとコマを進めますが、「勝ちたい」という純粋な欲求が足りないという弱点は、ある意味夏の段階で聖良によって既に指摘されていたとも言えます。

 

そんなSaint Snowが決勝大会へと進むために作ったこの曲ですが、この吹雪のような厳しさは、勝利を目指すにあたり彼女達が自らへ課した高く厳しいハードルなのでしょう。

ここまで来ても 答えが わからない
迷いの中 つかんだはずの光は
本物じゃなかった 闇に 飲み込まれて

勝利を目指し、研鑽を積んでもまだまだ見えない「頂点」という目標。

「自分たちの輝き」としてつかんだはずの光はまだまだ弱々しく、不安という闇へと飲み込まれていきます。

必ず 手に入れるはずの 輝きは どこにある?

地区予選の場面では、未だ届いていない「輝き」。それを模索している最中にあるという苦悩と、それをまだまだ諦めないという挑戦がこの曲のテーマなのかなと感じました。

それでも go to the world!
止められない 出口のない 夢の先を
探そう go to the world!
孤独がほら 今を 引き裂いてる

出口のない夢の先を探す、というのもその「挑戦」であり、「それでも行く」という強い意思は極寒の闇の中にあっても消えない情熱を唄っています。

 

雪の少ない地域の方にはピンと来ないかもしれませんが、雪が降る夜は明るいのです。

雪の結晶が僅かな光を反射し輝くことで、闇を照らし視界を作ります。

吹き荒ぶ吹雪は厳しさの象徴ですが、同時に背景で優しく支えるピアノの音色は、「雪」そのものであるSaint Snowの姿に見えます。

2番歌詞の

空の色が見えないのに 輝きを感じてる!

の部分は、闇にあっても尚もがきながら自らの力で輝きを見出す雪に自分たちの姿を重ね、戦う意思と強烈な感情を表しているように思えます。

 

曲の調性はハ短調。「悲劇的な力、超自然的な感情が込められる」と表現されると同時に、「柔和の中に真剣な情熱を持つ」とも言われています。*1

未だ及ばない頂点に対して悲観することはあれど、その中で輝く「真剣な情熱」という言葉は、まさにSaint Snowの2人を的確に表現していますね。

 

 

●吹雪のワルツ

ところでこの曲、テンポが独特ですよね。

イントロのダブルバスドラムと、理亞のラップパートを除いて、他のパートは三拍子の動きで進行しています。

※四拍子系は「ワンツースリーフォー」、や「いちに・いちに」という、1小節を4個に区切る音の並べ方をするのに対して、三拍子系は「ズンチャッチャ」という3分割の動きです。

激しいロックの中に優雅なワルツのイメージを持つ三拍子の動きが加わると、独特の浮遊感が曲の中に生まれ、激しさの中に柔和さが入り交じる複雑な感情を表現してきます。

その上で、途中最も激しいドラムの連打は四拍子で力強く、また理亞によるラップもそのテンポから「足を踏み外す」ことで切り取られたような世界観を演出しています。

 

SELF CONTROL!!を披露した時やその前の神田明神でのシーンには、彼女達の漲る自身やプライドといった強さが表現されていました。

しかしそこまで順調に勝ち進んだ中で本大会では8位という敗北(それも充分にすごいのですが)を味わい、世界の広さを知った2人にとって、それは"DROPOUT"とも言える衝撃として自尊心を盛大に傷つけられたのではないでしょうか。

2番のサビにある

痛みで Out of the world 胸が裂ける
こぼれ落ちた夢の欠片 ひろえば Out of the world
嘆きのあと いつか動きだせる だから顔上げて…

この部分は、負けた後の「次」を目指す気持ちとして、冬大会に臨む姿勢とそこに至る復活の姿を歌っているのだと思います。

そんな「まだ力は優勝には遠く及ばない」という苦悩を曲に表現した時、強烈な感情をダイレクトに打ち出せるラップのパートは特にその気持ちが表に出る部分であり、だからこそマイルドなニュアンスを含む三拍子のリズムからは独立させたのかなと考えることができます。

 

そういった複雑なテンポの中で歌声を踊らせる姿は、雪と聖良と理亞の三者が舞うワルツのようで、敵とも味方ともなる雪の存在が、その美しさと危うさを同時に表現しているようにも思えます。

(だからこそ難しいステップが導入され、本番でミスが出ることになるのかなとも思えますが、そこは曲の本質には関係しないため、掘り下げは行いません。)

 

 

●誰を呼びたいの?

理亞にとって、やはり姉は世界の全てで、スクールアイドル活動をする上で必要不可欠なものでした。本編ではルビィの活躍により、「新しいグループで頑張る」と決意を新たにしていますが、この段階ではやはり「姉と勝つため」活動している側面が大きいと思います。

SELF CONTROL!!で見せた力強い「聖良、Come on!!」の叫びには、「私の姉様はこんなにもすごいぞ」という誇りや自慢が見え隠れしていました。

彼女にとってCome on!!」と誰かを呼ぶことはある種「自分の限界を超えるために新たな道を探す救援の意味を持つ」、ということは第9話の記事で述べた通りです。

そして、この曲でも「聖良、Come on」が再び使われています。

 

ですが、前回のような自慢げな様子ではなく、今回は儚さと優しさを持った、丁寧な「Come on……」というニュアンスでした。

そこから続く聖良のパートは、ドラムが鳴り止みピアノ伴奏一本で歌声を聴かせる、孤高のソロパートです。

理亞が彼女に信頼を置き、決戦の場面で全てを託せる、そんな気持ちを込めて呼ぶ「Come on」の声には、きっと聖良も勇気をもらって歌い出せることでしょう。

抑えることなど できない力
持て余してるこの想い

普段、冷静に丁寧な口調で話す彼女が内に秘めた情熱。その想いがここで爆発しており、そこまでの演出も相まって最高に泣かせる落ちサビになっていると思います。

明日が描けない時も夢は 熱く蠢いてる

続く理亞のパートもその想いを受け継ぎ、燻る感情を存分に歌い上げていますね。

ここからのラスサビには強烈に気持ちが乗り、戻ってきたドラム伴奏の勢いとで歌声は非常に熱く、激しく踊ります。

誰を呼びたいの? 呼べばいいよ!

このメッセージには、聖良の「いつでも私を頼って下さい」という妹への祝福の想いが込められているのではないでしょうか。

 

そして、「聖良」と呼ぶ理亞の台詞について。

普段彼女は聖良のことを「姉様」と呼びますが、曲の中では強気に、もしくは慈愛を含ませて「聖良、Come on」と呼びますね。

下の名前で呼び合うことは、対等な関係の「仲間」として信頼している証。

ステージの上で、スクールアイドルでいるその瞬間は、姉妹という関係よりも「仲間」として姉に並び立ちたいという理亞の想いが表現されている素敵な台詞のように感じます。

 

 

●一瞬の静寂が魅せる光明

この曲で私が好きなポイントの1つに、アウトロの終わり方があります。

ラスサビ終了後から再びダブルバスドラムの強烈なビートが叩き付けられ、ワルツメロディの程よい安心感は吹雪の中に消えようとします。

ですが、イントロとは違う演出として、一瞬だけ存在する「間」

吹雪の夜に、風も雪も両方がふと止み、静寂と安寧が訪れる瞬間があります。

この曲を通して過酷な吹雪と戦い、諦めずに自分たちの輝きを失わず手を取り円舞曲を踊る姉妹の姿から、「次の可能性」が見えてきます。

その時、闇は晴れ、新たな光が見えるかもしれない。そんな光明が感じられるアウトロの一瞬の間は、厳しい曲調の中で最後に現れた救済の形なのではないかと思えてならないです。

 

ここまで魅力的で独特の世界観を持つSaint Snowのステージが途切れてしまっているのはとても残念なことではありますが、彼女達の持つ可能性はAqoursとの交わりの中で、新たな姿で喚び起こされました。

この曲の失敗の後に、「Awaken the power」を演奏するステージが持てたことは鹿角姉妹にとって本当の救済になったことを考えると、同じシングルCDの表題曲がAwaken the powerであることは喜ばしいことだと思います。

 

以上、「DROPOUT!?」を私なりに読み解いてみました。

彼女達がこの曲を完璧に演奏し、Aqoursと決勝で戦うという歴史も本当は少しだけ気になりますし、その時に彼女達が作る曲は、これを乗り越えたものになっているのではと想像すると切ないものですが、「Ah もしもは欲しくないのよ もっとが好き」と歌う先代に従い、ifを想像するよりも今ある全てを愛そうと思います。

解釈は無限にあると思いますので、これが全てではないですが、この曲が良い!と感じた人に取って、その良さを考える1つの手段として参考になる内容であれば良いと願います。

 

 

次回は、第12話挿入歌の考察記事でお会いしましょう。

 

 

 

 

●オマケ:Saint Snowの名前について

彼女達のことを考えた時に、曲とは関係ない部分でぼんやりと思い浮かんだことをメモっぽくまとめておきます。

Snow=雪=北国・冬のイメージ、及び海や夏のイメージが強いAqoursのライバルとしての位置づけ

Saint=聖良の「聖」、「函館聖泉女子高等学院」の学校名判明からは学校の名前を背負うという意味もあるのかなと考えていました。

理亞の「亜」には「次」とか「続くもの」という意味があるので、次女であることは勿論、聖良が抜けたSaint Snow(「聖」が抜けるため「Saint Snowは終わり」にもつながる)の「次のグループ」を継ぐものであるという役割。

雪は上から下へ降るものであり、μ'sのライバルであったA-RISE(昇りつめる者)とは対極のイメージ。「A-RISEとは全く違うライバル」と言われていた通り、ただ目の前に立ちはだかる壁の役割では終わらなかったですね。

 

以上、黒澤姉妹に負けないくらい魅力的な鹿角姉妹の、Saint Snow大好き記事でした。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

*1:引用:新版「音楽の理論」 門馬直美-箸 音楽之友社 より